比べ物になりませんでした

いつからかな。気付いたら女の子に勃つことが減った。うーん、ちょっと前まではちゃんとその辺の可愛い女の子にまで反応してたはずなんだけど、どうしたの、俺の息子さんよ。

「…しらんがな」
「えっ、どうかした?」

おっとしまった。今は最中なんでした。この前好きだと言われて付き合い始めた彼女。クラスは違えど可愛いと評判の子。
何で俺なの?と聞いたところ、廊下ですれ違ったときに一目惚れしちゃったの。だそうだ。

「そんなそんな」
「さっきからどうしたの?…それよりそろそろ…ね」

いかんいかん。気持ちのイイことには何も考えず従うべきだね。
彼女はもじもじと自ら足を広げ、溶けた表情で俺の股間に視線を向けた。スラックスの下にしまわれた息子さんは悲しいかな。あまり元気がないご様子。

「ゴム付けるから。も少し待ってて」
「うん…いつでもいいわ」

ベッドサイドに備え付けてあるゴムを手に取り、開封してゴミを捨てるついでに彼女に背を向ける。いやはや、へこたれた息子さんを見せる訳にはいかないでしょう。まさかこの歳で…いやいやそれは考えるのはやめておこう。
ゴムを付ける素振りで息子さんを擦る。うん、大丈夫、俺は正常だ。と言っても、以前みたいな有り余る元気はないなと落ち込んだ。とりあえずゴムを付け彼女へ向き直る。

「お待たせ」


印象に残ったのは、俺に腕と足とを絡ませて、あんあん無駄に喘ぐ彼女。
それから萎えそうになるのを、ひたすらいやらしいことを考えながら耐える俺だった。


「別れた」
「えー勿体ない。なんて勿体ないんだ」

んでその日の内に別れた。合わないと思うとだけ告げた。彼女の表情はよく覚えていない。

「んじゃ、どっか遊びにでも行くかね」
「おー」

返事をしながら荷物をまとめる。友人はすでに荷物をまとめてあったようで、どこに行こうかね〜。なんてはしゃいでいる。

「カラオケ…はこの間行ったし、ゲーセンかね」
「おー…お?」

ゲーセンいいじゃないのと思って、教室を出たところで、チビっこい奴が立っているのを見つけた。
教室の中を振り返るが、俺たちが最後だった。ということは。

「「どっちに用事?」」
「え、あ」
「「被んなよ」」

どこの双子だ。いや、俺たちは双子ではない。周りからは双子と呼ばれているが、ただセットでそう呼ばれているだけで本当の双子じゃない。

「…くす」

チビっこに笑われてしまった。これまた二人同時にチビっこに向き直った俺たち。そのせいかチビっこは一瞬怯んで目を見開いた後俯いてしまった。

「恐がらせんなよ」
「いやーそっちじゃないの」
「…あのっ!」

と思ったらバッと顔を上げて俺の方を見るもんだから、今度は俺が怯んでしまう。チビっこはそのまま真っすぐな目で俺を見ながら口を開いた。

「俺!この前廊下ですれ違ったときに一目惚れしたんです!…あっちゃんさん!…よかったら俺と付き合ってくれませんか!」

これは何というか。ツッコミ所があるんだけど、うん、とりあえず、デジャヴ。

「おま、あっちゃんさんだって〜面白い〜腹痛い〜俺もあっちゃんさんて呼ぶかね」
「ご、ごめんなさい…俺名前知らなくて…」
「いいよ」
「え、」
「いいよ。付き合おうよ」
「えーーー!!」
と、叫んだのはチビっこではなく隣に居るコイツだったけど。
当のチビっこは固まっている。困った。

「とりあえず、行こうか」
「俺とのゲーセンはどうするのさー!」

チビっこは相変わらず固まっているけど、(友人も)構わず手を引いて歩きだした。

「ね、名前は?何年?クラスどこ?」
「あー…ええっと」

おっとしまった。これは急かしすぎちゃったかな。ふと一歩後ろを歩くチビっこを、歩みを止めずに振り返ると俺を見上げてチビっこらしく小走りで着いてきていた。うーん、俺は何をそんなに急いでるかな。

「名前はゆずるです…一応三年―――」

少し緩めた速度でも大股に歩くチビっこ改めゆずる君。うん?あれ、俺は二年だ。
そう思って俺の足はぴたりと止まり、ゆずる君が変な呻き声を上げて俺の背中にぶつかった。

「ゆずる君、先輩じゃないの」

というかゆずる君というのもおかしいのか。ゆずる先輩…ゆずる君。うーん、困った。

「あ、あーそうですね…でもあっちゃんさん、」
「ちょっと待ってちょっと」
「…?」

いやいや、首傾げる前にこのチビっこは疑問に感じないのか。とりあえず天然ということでよろしいか。さてどうする、俺。いや、実のところ男でも問題はないよ。入れられれば。あ、息子さんに正直な健全な男子って言ってくれなきゃ嫌だなぁ、傷つく。

「じゃなくて」
「…?」

独り言なんで気にしないでくださいと言うと頷いておとなしくしてくれてる。
初めてなのは年上ってことで。結構どうすればいいか分かんない。それから忘れてたことあった。

「あっちゃんでいいんじゃない?」
「あっちゃん…わかりまし、」
「あと敬語もいらないよ、俺も敬語は使わない。先輩付き合うんでしょう?」
「わ…かった」

チビっこ改めゆずる君改め、先輩にはまだ確認しなきゃいけないことがあった訳だけど。

「先輩、俺とえっち出来る?」

うーん、これはちょっと直球すぎたか。言い直した方がいいだろうか。

「出来る…」

と思う…ってのは口の動きだけだったけど。確認オッケー、なら問題ないね。

「俺さ、知っててだから。あっちゃんが、やりち、むぐ」
「ストーップ!!その先は可愛い顔して言っちゃダメ」

ダメでしょう絶対。それまで普通に話してたくせに俺が手で口を塞いだ途端にぶわっと真っ赤になった。一目惚れって素晴らしいじゃないの。
とは言え、知ってるのはまあ、接しやすい。

「でもまぁ、そうかー先輩って結構…」

えろいのかな、後は好奇心とか、はたまた罰ゲーム。うーん、最後のはちょっと嫌かなぁ。

「む、何。俺って」

塞いだままだった俺の手を退けて訊ねられる。どれも言えない気がして、唸ってしまった。

「何なの?俺、んむ」

めんどくさかった訳じゃないけど、今度は唇で唇を塞いでみた。今までの男の中で一番柔らかい感じ。いやもしかしたら…うーん、それはさすがにないか。

「先輩、しようよ」
「…」

おー、また真っ赤に。
ああ、これ可愛いんだって気付いた。さっき止まってしまったけど、可愛いって言ってあげればよかったんじゃないの、俺。
しかし無言で真っ赤なのは、いいのかダメなのか。試しに一歩前に進むと先輩もまた一歩。手を引いたら握り返された。いいってことじゃないの。


外は日も暮れてきてちょっと肌寒いかな。
ところで、そういった場所に入ってから、繋いだ手が段々とがちがちになってきた。ちらりと盗み見てみたけど、見なければよかったと後悔。いや、俺の息子さんがちょっと危ない。
たぶんこういうとこ来ないんだろうね。繋いだ手、腕はぴんと伸びてて、お決まりって言うのかな、手と足一緒に出てる。完璧に下向いてて、俺が手離したら歩けないんじゃないのって感じで。
くるっと先輩の方に向き直って立ち止まる。

「あっちゃ、うぶ」

初なのは俺じゃなくて先輩でしょう。違うか。先輩は顔を上げたものの歩みは止めなかったからまた変な呻き声出して俺にぶつかった。

「どこがいい?」
「え」

何が?って顔をしてたけど、ニコニコな俺の顔の後ろ。何件か立ち並ぶホテルが視界に入ってもう、すぐに顔真っ赤。

「先輩の好きな外見とかでいいよ」
「う、ん。えー…じゃあ、あそこ」

控えめに指差された方を首を捻って見てみる。わぁ、すごくピンク!先輩てっきり顔真っ赤なんだろうと思ったのに今度は目がキラキラしてる。先輩表情とかくるくる変わるのね。

『私あのピンクのとこがいい。ピンク好きなの』

ふいに思い出してすっと熱が引いていくのが分かった。そうすると止まらなくて、先輩もやっぱり好奇心かなとか。

「先輩ピンク好きなの?」

うーん、子供だな俺。

「いや、あそこの名前。ハニーって、甘そう」

ちょっと。いや嘘、結構安心した俺はどうして比べてしまったのか。

「そ、先輩甘いの好きなの」
「うん、チョコとかアイスとか。あとは、」
「じゃあ、うんと甘くしよ」

少し間を空けて先輩が真っ赤になったのは言うまでもない。


部屋結構空いてる。男同士ってばれると拒否されちゃう時もあったから、さっさと選んでさっさと部屋行ってさっさと風呂入って…うん。
空いてる中で一番安い所にしたけどいいかな。と思って、エレベーターの中で聞いてみた。

「どこでも構わない…けど、」

けど?あれ。

「今度はあの821号室がいい。ハニーで、ハニーだろ」

これは…。何でもないように言ってるけどこれは。息子さん待って、も少し!分かってるよ、今度だのハニーだのそれだけで抜けると思うよ。

「どうかしたか?」
「ほんとにほんとに甘くしたげる」


「先輩俺、風呂先に入っていいかな」
「ど、どうぞ」

部屋に入ってすぐいきなりだがちょっと、抜いておきたいです、なんて言えないけど。久しぶりに元気一杯な息子に会えそうで気分があがった。
了承もらったからいそいそと風呂場へ。俺はいつも普段からシャワーだけで湯槽に浸かんないんだけど、先輩が使うかもしれないしとお湯を溜めながら体を洗う。

『私もお風呂一緒に入りたいなー』

違うこれじゃないです。

『今度はあの821号室がいい』

そうこれですよ。
期待してるのかな、それは俺も一緒でしょうね。あー先輩絶対肌もスベスベモチモチでどこ触っても気持ちよさそう。柔らかかった唇からはどんな声が。今度って言ったの先輩だし、その時には先輩の好きなアイスとか塗って、しゃぶってくれってお願いしたらしてくれんのかな。あの柔らかかった唇の中で。

『あっちゃん』

はーい…ゆずる、君。


「先輩、どうぞ。お待たせ」
「あ、あぁ、う、うん」

吃りすぎじゃないの。ベッドの端の方に乗り上げて正座してるし。チビっこが更にチビっこ。真っ赤な顔は健在で、俺と視線を合わせたかと思ったのにすぐ逸らされて、バスタオルを引っ掴んで、俺の前を颯爽と駆け抜け風呂場へ消えた。

「うーん、AVは逆に萎えそ」

テレビのリモコンを握ったはいいが、何となく後の俺の(息子さんの)想像が付いてやめた。
あー、そうだ、ローション鞄にあるかな。備え付けじゃたぶん心許ないというか、ぬるぬるさせまくりたいなっていうのは俺の趣味だったり。


―――え、先輩、まだですか。40分くらい経ったんじゃないの?まさか逆上せたり、してるんじゃ。いや、別に覗くとかそういうやましい気持ちは。うーん、ちょっとあるね。
心配8割、やましさ2割の勢いで浴室のスライドドアを開けた。

「先輩?大丈夫、逆上せたり…、」
「みっ!」

…えええ…先輩泣いて、る。予想外、ショック、まじか、でもやっぱり恐くなったりしたかな。でもみっ!って可愛い。

「てんじゃねーよ!」
「いっ」

続きがあった。しかも石鹸も飛んできてデコが痛い。あたったんだと気付かされる。でも俺は見た。この色々考えてる間に、石鹸を掴んで投げる先輩の、股間を。どうか、見間違いでありませんように。

「先輩ひどいよ心配してきたのに」
「ノックとかないのか!」

そこはやましい気持ちがあったことも含めて、すみませんでしたと素直に謝った。いや、でもノック忘れるくらい心配したんだって言ったら真っ赤になんのかな。やましさの方も言ったら真っ赤になりそうだけど。

「早く出て待ってろよ…」
「出てくから質問。どうして先輩、勃ってんの」

痛むデコをさすりながら、先輩の股間へ視線をやったら、思い出したみたいにバッと両手で隠してしゃがみ込んでしまった。

「…、たから」
「聞こえなかった」

ひたひた近寄って背中を向ける先輩の後ろに同じくしゃがんで、肩に顎を乗せた。すごく火照ってるけど、心地いい。それとやっぱスベスベ。モチモチ感触を確かめるのにはやっぱり太股とか触りたい。

「…風呂上がりのお前のしっとりした感じ、思い出したら、なんか…ふわっ!」

見間違いでもなかったし、もう我慢はしなくていいでしょ。というか、出来ないです。
それにしても先輩小さくてよかった、抱っこしやすいちょうどいいサイズ。怒るかな、気にしてるか聞いてみたい。
バスタオルもちゃんと掴んで先輩にかけて来たんだけど、拭いてもどうせまた風呂だし、と思って先輩を降ろす前にベッドに放り投げた。その上に先輩をゆっくり降ろして。

「よし、ではいただきます」
「え、う。召し上がれ、でいいのか」

うん、息子さん、とっても立派だ、感動した。今ので反応しないなんて男失格なんじゃないかな。
それに加えて、なんでなんでと悩んでいたことが、ちょっと分かった感じ。

『お前のしっとりした感じ思い出したら』

勃って、俺はそれを聞いて勃った。それだけなんだけど。

「あの、さ。んっ…ゆずる君て、」
「呼んであげる」

その真っ赤になるとこ、やっぱり可愛いじゃない。言ってみよう、入れたときにでも。あと自分でゆずる君て、これはたくさん言ってあげなきゃ。


「別れた?」
「いや」
「え、」
「別れてないよ」
「えーーー!!」
「残念でした」
「ゲーセンはどうしてくれるのさー!」



(週一くらいは遊んでやるから)
あい「比べ物にならなかった」(2011/03/10)